「悪い情報も上にあがる組織風土」だけが、経営を正す時代になる。

令和の時代になっても、いまだになくなる気配のない、企業不祥事。
「コンプライアンス」という言葉が一般化した今でも、なぜ、企業は不祥事を起こし続けるのでしょうか?

その原因を、株式会社インプレッション・ラーニングの代表 藤山さんは 「上にモノが言えない終身雇用とか年功序列といった古い制度がまだまだ根強く残っているから」
だと話します。

年間400件以上の研修をプランニングしているインプレッション・ラーニングでは、コンプライアンス研修や、ハラスメント研修、アカウンティング研修、マネジメントやコミュニケーション研修等、様々な人材育成のアプローチや手法を通じて、その企業が抱える課題解決とコンプライアンス浸透の支援をしています。 その事業の根幹には「正しい経営=悪い情報も上に上がる組織風土が経営を正す」という藤山さんの企業への想いがあります。

その原点には、インプレッション・ラーニングを立ち上げる前の、藤山さんの壮絶な体験があります。

今回の出来事で企業を取り巻く環境が大きく変化する中、「コンプライアンス」を徹底し、守り続けていく意義。
そして、その中で企業内研修をプランニングし続けるインプレッション・ラーニングの使命とは。

コンプライアンスの定義を見つめ直すインタビューです。

<Profile>
藤山晴久(ふじやま はるひさ)
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役/企業研修プランナー/産業カウンセラー/ハラスメント研修企画会議主宰
宮城県仙台市出身。立教大学経済学部卒業後、アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにてビジネススクール運営業務、企業内研修の法人企画営業に携わる。
2009年 株式会社インプレッション・ラーニングを設立。独立後はコンプライアンス教育を中心に、会計からマネジメントまで幅広いテーマの企業内研修を様々な業種に向けて、年間約400件の研修をプランニングしている。

会社が利益のために不正をしないためにも、理念に立ち返る”正しさ”が必要なんです。

ーインプレッション・ラーニングは、様々な業種の企業で、年間400件以上のコンプライアンス研修をプランニングされています。コンプライアンスを事業の軸にした理由は、ある印象的な出来事があったとお聞きしました。

きっかけは2004年ごろまでに遡ります。当時、とある会社のコンプライアンスの教育支援をさせていただいてました。その会社は長年勤めていた前社長がコンプライアンス違反を起こし、マスコミからバッシングされていて、ちょうど新しい社長に入れ替わっていた時期だったんです。私はそのタイミングでちょうどコンプライアンス教育の機会をいただいて、コンプライアンスチームの方と一緒に研修を行っていました。
ある日、いつものように研修を終えて、新社長を交えてお昼ご飯を食べていました。新社長はとても朴訥で、人柄も良い方でした。その時も「うちの会社もマスコミからバッシングされるから大変ですよ。でも、こんな会社ですが、藤山さんこれからもよろしくお願いします」って私に言ってくださったんです。そんな会話をした次の日に、家で朝刊を見ると、その新社長が自殺した、という記事が一面に載っていたんです。

ーそれは・・・衝撃ですよね。

ええ。前日にお会いして、ご飯を食べながら、普通の会話をしていたのに、って。本当に衝撃でしたね。その時に「コンプライアンスの体制や風土が整備できていない会社は、簡単に人の命を奪ってしまうんだな」と痛感したんです。
当時はコンプライアンスって言葉自体「法律さえ守っときゃいいんでしょ」って感じでした。ですが、お客様が自殺する、という壮絶な経験をした私からすれば「コンプライアンスっていうのは、そんな簡単なものじゃない。コンプライアンスを徹底しないと人の命が奪われるんだ」って強烈な問題意識を持ちました。その出来事を経験してから、コンプライアンスに対して、研究するようになったんです。

ー当時はコンプライアンスという言葉自体「法令を遵守すること」ってイメージがありましたよね。

まさしくそうですね。当時はコンプライアンスよりも海外のMBAのプログラムにあるような「ロジカルシンキング」「アカウンティング」などの研修プログラムが流行化した時代だったんですよね。
私はコンプライアンスは「お客様の信頼に応えるために、自問自答し続けること」だと研修でいつも言っているのですが、要は「正しい経営」「正しい働き方」ということなんですよね。常に世の中に対しての会社の存在意義や役割を考え続けることが大切なんです。
コンプライアンスと一言で言っても、実際はコミュニケーションやマネジメントの問題、いろんな角度から考察していかないと、会社の風土はそう簡単には変わらない。会社を変革するということは、本当に時間がかかることなんです。

ー今ではやっと「正しい経営」や「正しい会社のありかた」は、会社経営において当たり前の価値観だと言われるようになってきました。

2000年前後は大企業の不祥事が多く起きていた時期でした。なので、個人的にはなぜ大企業で不祥事が起きてしまうのか。どのような作用が働いて不祥事が起こるのか。そのメカニズムを色々と研究しました。 今でこそ、SDGsなんて言われていますが、一昔前じゃ考えられなかったですよね。昔は「バレなかったらなんでもやっていい」って感じでしたからね(笑)
日本では高度成長期を経て、バブルがはじけて、不良債権問題で経済が破綻して、そして、2000年代の不祥事で会社の膿がやっと露呈するようになりました。企業の中に不正が起きないようにコントロールする内部統制の仕組みだったり、社長が不正しないように監視するガバナンスが生まれてきました。ようやく会社が「正しい経営」に意識を向けて、「不正が起きないような経営をしよう」って動きになったんです。本来、それが当たり前のことなんですけどね。

ーですが、いまだに企業の不祥事は起き続けていますよね。企業不祥事が起こってしまうのは、何が大きな原因なんでしょうか?

はっきり言って、経営陣に課題がありますよね(笑)国会を見てくださいよ。70代、80代の人たちが現役で日本を動かしているじゃないですか。企業も、例えば経団連もほとんどが60代、70代で、50代で若手だって言われる組織です。しかも、ほとんどが転職を経験していない、長年、大企業に勤めあげている人ばっかりですよね。そんな人たちが転職した人や、リストラされてハローワークで仕事を探す人たちの気持ちなんて同喜同悲でわかるわけないですよね。

ー今労働の流動化がトレンドになってきていて、同時に企業のコンプライアンスも重要視されるようになってきました。それでも不祥事がなくならないのは、終身雇用制度といった古い制度が残っているからなんでしょうか?

そうですね。終身雇用は上のポストに”上がっていく”制度”で、学校の体育会の先輩後輩の関係みたいなものです。上に「正しい」ことが言えないっていう風土はいまだに残っていますよね。だから下で隠蔽が起きてしまう。企業の中には取締役会でさえ全く機能していないところもあります。本来、取締役会っていうのは社長の暴走を止めるために存在しているのに、いざとなると「社長にそんなこと言えません!」なんて言われてしまう。「上にモノが言えない」という風潮は、終身雇用とか年功序列といった日本的経営がまだまだ根強く残っている証拠なんですよね。
終身雇用は崩壊してきている、とは言われていますが、経営層の多くは終身雇用のもとで働き、家族を養ってきた。その思考のままだから、実際のところ、あまり高度成長期の頃から考え方が変わっていないのが実情なんです。

ーこれからの時代、会社経営はどのように変化していくと思いますか?

私はこれからの会社経営において「正しい情報だけが、経営を正す時代になる」と考えています。「正しい情報」とはつまり、「悪い情報が上がる組織風土」のことです。

ーなるほど。

私はコンプライアンスという言葉を端的に「変化する環境にしなやかに対応しながら、相手の期待に応え、信頼される行動」と定義しています。今回の出来事でコンプライアンスを浸透させるために、自問自答している企業も多いですが、まだまだ、多くの人は誰かに指示されたから、自問自答しているというスタンスなんです。結局、上の人の顔色を伺っている。他人事で、保身的な姿勢なんですよね。
でも、ここようやく会社の”理念”に照らし合わせて、「正しい経営」について公に議論が出来るように空気になってきました。でもまだ、この正論を人に話すと、「正論なんて、所詮綺麗事だよね」って一笑されてしまうんです。しかし、本来会社というのは、適正な利益率を確保する制約条件を課した上で、その会社の”理念”を実現することが絶対条件なんです。正論を曲げなかった会社が、今回の出来事で業績を維持、上げることが出来た会社が世の中にはあることも知って欲しいと思います。これが会社経営の本質です。理念に立ち返る”覚悟”が必要なんです。

ーしかし、いまだにコンプライアンス研修の多くは法令遵守がベースですよね。「守り」について学ぶことが一般的だと思います。

そうですね。確かに多くのコンプライアンス研修は「法令遵守」を重視しているので、法令の話しかしないところが多いです。最近「リスクマネジメント」のこともよく言われます。

ーリスクマネジメントはまさに「守り」や「保守」といったイメージがありますよね。

実はそれはちょっと違うんです。多くの人はリスクマネジメントを企業の問題や事件や事故という意味合いで捉えていますよね。つまり、会社を守るためにその問題をいかに排除するのかという視点です。しかし、そもそも「目標管理」と「リスクマネジメント」は表裏一体の関係なんです。

ーええ!一見、全く正反対の言葉に思えますが・・・。

会社の目標に対して、達成できる理由を積み重ねる。これが「目標管理」です。一方で、目標に対して、達成できない理由をどうやったら達成できる理由に変えることができるのか。これが本来の意味での「リスクマネジメント」なんです。つまり、「リスクマネジメント」は守りではなく、実は100%攻めの議論なんです。

これからの時代は会社経営において、社員個人のストーリーや人生観と、会社の理念がマッチングが重要な要素になる

ーインプレッションラーニングの研修を受けて、意識が変わってきた企業にはどんな特徴がありますか?

一回失敗して痛い目にあっている会社は研修を経て、意識がガラッと変わりますね。不祥事があって転落してしまう怖さを身を以て知っている。こういった会社は、上司や経営陣がくどいくらいまで継続的にコンプライアンス研修をやり続けています。私はもう20年くらいお付き合いさせていただいている企業がありますが、一度不祥事が起きてからずっとコンプライアンス研修を続けていて、やっと会社の風土が変わってきたなという感じです。人と組織を変えるのは、とても時間のかかることなんです。

ーということは、コンプライアンス研修を続けるという経営者の意思がすごく大切なんですね。

その通りです。まず、経営者の意思が変わらないと、会社は変わりません。だから、大企業でも不祥事の痛みを知っている会社は強いですね。最近はリモートワークが一気に浸透して、会社のバーチャル化が進みました。経営自体もどんどんアップデートしなければ、生き残れなくなっています。そんな中で、会社員の多くが「自分が働いている会社の社会的意義ってなんだろう」「自分は会社にどう貢献できているんだろう」って会社や仕事について考える機会がとても増えていると思います。

ー副業の解禁や成果主義の広がりで、働き方や会社との向き合い方がガラリと変わってきていますよね。

そうですね。これからは、個人の力がとても大きくなると思います。会社経営においても、社員個人のストーリーや人生観と、会社の理念がマッチングが重要な要素になっていくと思います。
私は研修の中、40代以上の方に「会社の20年後の未来と考えてください」とお伝えしています。10年前にiPhoneは存在していなかったのに、この10年で一気に浸透して、社会もテクノロジーも一変しました。つまり、未来のことは誰にもわからないんです。その20年後に会社のかじ取りを担うのは、今の20代、30代ですよね。だからこそ、今からその彼らが活躍しやすい環境を一緒に考えながら作らなければならない。そして、社員も会社に対して強烈な当事者意識を持たなければならないんです。
コンプライアンスとは、つまりは「信頼されること」です。これからの時代、個人と会社がお互いの理念を尊重して、フェアな関係を築いて信頼しあえば、より強固な組織になる。それが結果的にお客様からの信頼に繋がります。お客様から信頼され、仲間同士が信頼しあえる「個」が集まった組織は最強です。裏を返せば、経営者が社員を信頼して、社会的な変化に柔軟に対応していかないと、会社が続かない時代になってきているんです。

ー社会的な変化に対応できる組織づくりの「コンプライアンス」=「柔軟性・しなやかさ」を伝えていくことが、インプレッション・ラーニングの使命になってくるんですね。

そうですね。これだけ変化が激しい時代ですので、社会の変化をキャッチアップし、しなやかに変化できる組織にしていかないと、持続させていくのは難しくなるでしょう。だからこそ、変わらない理念、変わらない行動規範が、会社や組織を変えていく強力なエンジンになるんです。繰り返しになりますが、「悪い情報も上に上がる組織風土」だけが、経営を正す時代になるんです。そのためにも、社員個人が会社に依存するのではなく、自分の理念を掲げて、自分の足で立ち、コンプライアンスへの意識を持つ。経営側も個人を尊重し、信頼する。そんな会社が一つでも日本中に増えれば、パワハラって言葉は死語になりますよね。
日々、企業研修を通して会社と個人にコンプライアンス意識の大切さを伝えていくこと。それが当社の使命だと考えています。

インタビュー実施時期 2020年9月
インタビュアー カラムーチョ伊地知

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