「世界のエリートがやっている 会計の新しい教科書」,BSアプローチ,BSアプローチ会計学習法、人材開発、人材育成セミナー、企業研修、コンプライアンス研修、財務研修など、株式会社インプレッション・ラーニングでは、公認会計士等、各専門分野の講師陣によってご提供します。

「世界のエリートがやっている会計の新しい教科書」(日本経済新聞出版社)をお読みになり、「BSアプローチ」を会計教育に取り入れたいとご検討されている方々へ

1.本稿の目的

 本稿は、会計教育に携われる方で、今後、会計入門者に向けて、「世界のエリートがやっている会計の新しい教科書」(日本経済新聞出版社)(以下「本書」)で紹介した新しい会計の解説方法(BSアプローチ)を何らかの形で採り入れたいとご検討されていらっしゃる方を対象とします。
従って本稿の内容は教育者側に合せた専門的な内容を多く含んでおり、「本書」とは違って、一般読者の方を対象としたものではない点にご注意ください。

 本書の文中においては、極めて平易な言葉で、初心者に定義と論理の整合性を保ったまま会計の仕組みを分かりやすく説明するため、様々な工夫が行われています。主な点は以下の2点です。
  1. いわゆる財務諸表の構成要素(本書では会計の基本概念と呼んでいます)の説明として、(現状の会計業界の動向を踏まえた上で)独自の資産、負債、資本、収益、費用の定義を示しています。
  2. 取得原価主義の説明についても解説上、一定の配慮を加えています。
BSアプローチの採用をご検討される皆様におかれましては、これらの記述の背景にある考え方を確認し、既存の会計業界における議論との整合性や関係性を把握されることが必要と考え、本稿を公表することと致しました。これにより、本書のBSアプローチがどのような基本的考え方の上に成り立っているかをスピーディにご理解頂けるものと考えています。

2.本書における基本概念の定義について

 本書では、会計の基本概念を以下のように定義しました。
「資産とは、会社が実質的に所有する、価値を有するものである。」
「負債とは、会社が将来資産を支払わねばならない、支払義務である。」
「資本とは、資産と負債の差額である。」
「収益とは、当期中の利益剰余金の増加の内訳明細記録である。」
「費用とは、当期中の利益剰余金の減少の内訳明細記録である。」

以下に、基本概念の定義に用いた基本的手法、及び各定義の背景についての説明をします。

<基本概念の定義に用いた基本的手法>

国際会計基準審議会(IASB: International Accounting Standards Board)は「財務報告のための概念フレームワーク2010」を2010年9月に公表しています(以下「IASB概念フレームワーク」という。その後2013年7月にディスカッション・ペーパー(DP)「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」を公表しています)。また我が国の企業会計基準委員会(ASBJ: Accounting Standards Board of Japan)では、「財務会計の概念フレームワーク」(以下「ASBJ概念フレームワーク」という。)を2006年12月に公表しています。
本書では、これらIASB概念フレームワーク及びASBJ概念フレームワークの記述を踏まえ、会計入門者になるべく明確な論理と身近な言葉遣いで解説するという手法を採っています。

<資産>

IASB概念フレームワーク及びASBJ概念フレームワークによる資産の定義は以下の通りです。
(IASB概念フレームワーク)
「資産とは、過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう。」
An asset is a resource controlled by the entity as a result of past events and from which future economic benefits are expected to flow to the entity.
(ASBJ概念フレームワーク)
「資産とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう。」
資産概念については、IASB概念フレームワークとASBJ概念フレームワークはほぼ同じと考えられます。そこで本書における定義との関係について説明します。
まず「過去の事象の結果として」ですが、本書の定義では省略しています。これは「過去の事象の結果ではない」資産を想定することが初心者向け解説として特に必要とは認められないという判断によります。
次に「支配」の概念ですが、ここでの支配とは、ASBJフレームワークによれば、「所有権の有無に係らず、報告主体が経済的資源を利用し、そこから生み出される便益を享受できる状態という」とされています。よってIASB概念フレームワークの「将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される」の部分も事実上包含されていると考えられます。
本書においては実務上、通常の経済取引において「支配」を表すほとんどの根拠が「法的所有権」であることから、この「支配」を「所有」と置き換えました。これは米国の会計入門書でも良く見られる手法です。またファイナンスリース取引のように必ずしも法的所有権が報告主体に帰属していなくても資産とみなすことがあるため、「実質的に所有する」と説明しました。
「経済的資源」については、ASBJフレームワークによれば「キャッシュの獲得に貢献する便益の源泉を言い、実物財に限らず、金融資産及びそれらとの同等物を含む。経済資源は市場での処分可能性を有する場合もあれば、そうでない場合もある。」とされています。
本書においては、この経済的資源を指して「価値を有するもの」としました。これは単純に平易な言葉への置換です。
なお、IASB概念フレームワークの資産概念は資産の本質的特徴を明らかにするものであり、定義を満たしただけでBSに計上されるわけではなく、別途認識の基準も満たす必要があります。この資産の認識の基準の論点については本書の入門書としての性格から省略しています。

<負債>

IASB概念フレームワーク及びASBJ概念フレームワークによる負債の定義は以下の通りです。
(IASB概念フレームワーク)
「負債とは、過去の事象の結果として企業の現在の債務で、その決済により、経済的便益を有する資源が当該企業から流出されることが予測されるものをいう。」
A liability is a present obligation of the entity arising from past events, the settlement of which is expected to result in an outflow from the entity of resources embodying economic benefits.
(ASBJ概念フレームワーク)
「負債とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源を放棄もしくは引き渡す義務、またはその同等物をいう。」

負債概念についても、IASB概念フレームワークとASBJ概念フレームワークはほぼ同じと考えられます。負債概念については、本書の定義は基本的にこれらのフレームワークと同様の考え方に立ち、平易な言葉に置換しています。

<資本>

IASB概念フレームワーク及びASBJ概念フレームワークによる負債の定義は以下の通りです。
(IASB概念フレームワーク)
「資本(Equity)とは、企業のすべての負債を控除した残余の資産に対する請求権をいう。」
Equity is the residual interest in the assets of the entity after deducting all its liabilities.
(ASBJ概念フレームワーク)
「純資産とは、資産と負債の差額をいう。」
「株主資本とは、純資産のうち報告主体の所有者である株主(連結財務諸表の場合には親会社株主)に帰属する部分をいう。」

 資本概念については、IASB概念フレームワークとASBJ概念フレームワークとは大きな違いがあります。IASB概念フレームワークの方は、純資産の変動額(資本取引を除く)と包括利益が一致するという関係(クリーンサ―プラス関係といいます)が1つだけ存在しますが、ASBJ概念フレームワークにおいては、これに加えて株主資本の変動額(資本取引を除く)と純利益の間にもクリーンサ―プラス関係が存在するという考え方になっています。これは包括利益と当期純利益の2重開示を可能とする工夫でありますが、本書においては最初から2つのクリーンサ―プラス関係をもって資本の定義を行う方法は採っていません。
 本書では、第1章の会計入門編においては、ASBJ概念フレームワークにおける「純資産」の定義をもって、まず「資本」の定義とし、第2章の説明の中で包括利益について初めて言及しています。これは初心者にとって、資産負債の測定の例外的な論点(時価評価の対象となる一部の金融商品等)を説明する前に包括利益の理解をするのは分かりにくく、また必要がないとの判断に基づきます。

<収益・費用>

IASB概念フレームワーク及びASBJ概念フレームワークによる負債の定義は以下の通りです。
(IASB概念フレームワーク)
「収益とは、会計期間中の資産の流入、増価、負債の減少の形をとる経済的便益の増加であり、持分参加者からの出資に関連するもの以外の持分の増加を生じさせるものをいう。」
「費用とは、会計期間中の資産の流出、減価、負債の発生の形をとる経済的便益の減少であり、持分参加者への分配に関連するもの以外の持分の減少を生じさせるものをいう。」
Income is increases in economic benefits during the accounting period in the form of inflows or enhancements of assets or decreases of liabilities that result in increases in equity, other than those relating to contributions from equity participants.
Expenses are decreases in economic benefits during the accounting period in the form of outflows or depletions of assets or incurrences of liabilities that result in decreases in equity, other than those relating to distributions to equity participants.

(ASBJ概念フレームワーク)
「収益とは、純利益または少数株主損益を増加させる項目であり、特定期間の期末までに生じた資産の増加や負債の減少に見合う額のうち、投資のリスクから解放された部分である。」
「費用とは、純利益または少数株主損益を減少させる項目であり、特定期間の期末までに生じた資産の減少や負債の増加に見合う額のうち、投資のリスクから解放された部分である。」

収益と費用についても、クリ―ンサ―プラス関係の捉え方の違いから、ASBJ概念フレームワークの方は、資産負債差額の変動のうち、株主持分及び少数株主持分の増減に対応する部分のみを収益費用と位置付けており、包括利益とは区別しています。
本書はASBJ概念フレームワークの立場を採り、かつ利益剰余金の増減の内訳明細記録であるという説明としました。また、収益・費用というのは、実在するもの(実在勘定:real account)ではなく、いわゆる名目勘定(nominal account)であるという前提に立ち、実在する「モノ」(権利義務を含む)としての資産負債と区別するために、その本質は「記録」であるという説明方法を採用しました。

3.取得原価主義について

ASBJ概念フレームワークでは、「財務報告の目的を達成するためには、投資の状況に応じて多様な測定値が求められ、資産と負債の測定値をいわゆる原価なり時価なりで統一すること自体が、財務報告の目的に役立つわけではない」という旨が記述されており、貸借対照表上の資産の測定について、歴史的原価を採用することが統一的に求められるというような考え方は採っていません。収益費用の認識において、事業投資については、投資リスクから解放され、投資の成果を示す収益、およびそのための犠牲たる費用を認識測定するためには「交換に着目した収益の測定」が用いられるとし、金融投資については「市場価格の変動に着目した収益の測定」が用いられるとしています。
本書においては、上記の投資の性格に応じた測定については、いわばIASB概念フレームワークよりも進展した議論であり、本書の性格に照らして高度な議論に過ぎるとの判断から、貸借対照表上の資産の測定について、歴史的原価を採用することが取得原価主義であるとする、実務上、現状では相当に浸透していると考えられる解説に留めることとしました。従って、例えばその他有価証券の測定については取得原価主義の例外という位置付けになっています。

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